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泳ぐ脆い感情
時は一定に過ぎてゆく。なのに、時の流れの速さ、遅さの違い感じるのは何故なのだろうか。蝉の声がくっきりと聞こえる今の自分には何が足りないのだろうか。透明な海にあっけなく溺れてしまいそうな今の自分が嫌いになりそうだ。
淡々と足が進み、今にも雨が降りそうな雲の中を歩いて行った。
「湊」
最後にLINEをしたのは約24時間前。私は勇気を振り絞り、5年ぶりに湊と会うことにした。あのいじめが引き起こした事件と向き合うためだ。
そこにいたのは、顔立ちの良い、スタイリッシュな湊だった。ピュアな好青年だった面影も少しあるが、「大人の湊」になっているのは確かだった。湊を見ていると次第に過去を震わせ、あの恐怖がよみがえりそうで怖かった。今でもフラッシュバックすると周りが何も見えなくなる。でも、今は向き合わなければならない。
ただ、六月の吠えに謳歌していた高校生時代を思い出す。
酷い雨音が頭を引きちぎり、自分の心をえぐられる感覚だ。行きたくもない学校に行き、毎日がしんどかった。高校生時代は、ずっと中学校までの生活を思い出しては泣き、過去に戻ってずっとあの場所へ行きたかった。
全ての発端は湊にあると思った。湊と関わったから、湊と青春をしたから。私があんな目にあって、今も怖くて。
一番許せないのは私をいじめた人たちだ。私は何も悪いことなんてしていなかった。
黙々と時間が過ぎていった。こんなことを考えているうちにどれくらいの時間が過ぎただろう。湊はずっと遠くを眺めていた。
その刹那、彼は振り向いた。
「あのさ」
今まで口を開かなかった湊が、今日初めて喋りだした。
「今度、海行かないか」
その日は、何もない、真っ青な海が頭に残っていた。
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