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ラピスラズリと海の底
私の大切なものは海の底にあるのだ。
あの日、私は何を返したか覚えていない。でも、その後、湊から「いつ行く?」というLINEが来たので「行く」と返答したのだと思う。
今日は湊と一緒に海へ行く日だ。何故海へ行くのか分からなかったが、前に湊と会った時に高校生時代の話をするのを忘れていたことにふと気がついた。今日はきちんとそのことを話そう。
PASMOと携帯、カメラなどをカバンに詰め込み、海へと向かった。電車で15分ほどの場所にある海は、潮の香りがして清々しかった。砂浜の上に、爽やかな湊が目に移り、顔が少し熱くなったことを感じる。
「待った?」
「ちょっとな」
「ごめん」
「別に謝ることでは無いだろ」
「うん、ごめん」
「だから謝ってるだろ」
その瞬間、笑いが溢れた。その笑いは、中学生時代から変わっていなかった。
「それで、言いたいことがあるんだけど、いいか?」
「うん」
「高校生の時さ、俺、羽衣に辛い思いさせたな、って」
その瞬間、ウミネコが鳴き、沈黙が訪れた。その一瞬に一陣の風が吹き、海の匂いが頬を突く。
「別に、湊が悪い訳じゃない」
ポロッと出た一言で、私は後悔した。あんなに湊を憎んでいたのに。いや、私は憎んでいたのか?
「俺は羽衣とずっと一緒にいたい」
突然の告白に動揺した。
「俺は、羽衣のことが好きだった。だけど、高校生時代に告白されて、断れなかったんだ。でも、それで羽衣を苦しめた」
目が潤った。
私に、もう一度青春が訪れた瞬間だった。海の底に沈んだラピスラズリが、もう一度浮かび上がってきたようだった。
鯨が私の視界に捉えたとき、私はその衝動から目が泳いでいた。
海の蒼さと鯨の雄大さに呑まれ、私は船を漕ぎ出す。
その鯨は、息を吸って泳ぎだしていた。
私は、その一直線に向かって動き出す。目がぼやけようと、その眼差しは感情の海が映し出しているのだ。
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