みずほたんと言うなかれ

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★ 『白石真(しらいしまこと)』――それは猪俣と接点のある人物だった。 ショートボブの髪型で背は高いほう。中学生の頃は男子に混ざってサッカーをやっていたという快活な女子で、今は男子サッカー部のマネージャーをしている。 猪俣とは中学時代からのクラスメイトで、一緒にいるところをたびたび見かけた。 知る人によれば、「私と猛司は戦友だから!」が彼女の口癖らしい。 「その近しい関係性から察するに、あのラブレターを白石が書いたと思えないっす」 「たしかにそうよね。でも――」 みずほ先輩は本棚に足を運び、ファイルを一冊取り出した。 それは新入生が入学時に記載した自己紹介のコピーをファイリングしたものだ。ページをめくり、途中で手を止める。 「筆跡は綺麗に一致していると思わない?」 「たしかに……」 簡単に真似できない、特徴的な丸文字。納得せざるを得ない。 けれど白石が親しい猪俣に対して遠回しなラブレターを書いたとすれば、その理由はなんだろうか。 ふと、猪俣の『みずほたん』という呼び方を思い出した。 それから、みずほ先輩に対する猪俣の馴れ馴れしい態度。 そして、貰ったラブレターをぞんざいに扱うという違和感。 さらに、ラブレターを書いたのは親しい女子だという事実。 情報は俺の中で輪を形成してゆく。 そしてひとつの仮説にたどり着いた。まさかと思い、みずほ先輩に尋ねる。
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