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蒼い蝶の戯れ~終幕~
「それは、ひどく蒼い鱗であった」
テーブルの上には、失敗して書き散らしたままの原稿用紙。
そのうちの一枚をつまんで広げると、最初の一文が目に留まった。
あのお客様も、ここで必死に言葉を紡いで、もがいていた。
最後はその翅を広げ、ひと時の幸福を味わっただろうか。
それとも。
ほんの数日前の会話が思い出される。
あの日のお客様は、蒼い鱗を「人魚」だと言った。
その次のお客様は、蒼い鱗を「涙」だと。
別のお客様は、蒼い鱗を「身を護る殻」だと。
各々、書き上げた自慢の物語を広げては、
蝶になって消えていった。
ここは、物語の終わりのはじまり。
書き上げた作品は、蝶となって消化される。
そう、口から摂取して咀嚼し、分解する…消化。
お客様は、神様ですなんて言葉があるが、
私から言わせてもらえば「お客様は、ごちそう様」。
その味付けも、素材の味も、旨いも不味いも関係ない。
頭から足の先まで、すべて、ごちそうである。
私は口の周りについた鱗粉を雑にぬぐった。
それは、ひどく蒼い鱗であった。
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