蒼い蝶の戯れ

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蒼い蝶の戯れ

それは、ひどく蒼い鱗であった。 窓の外にじっと目を凝らす。それは、おびただしい量の蝶の翅であることがわかった。店内から漏れるのランプの光を浴びて、時折戯れるように翅が舞う。その下には、幾重にも山となった蝶の死骸。 「あれは一体、どうしたのですか」と、私は店主に尋ねた。 「えぇ、美しい蝶でしょう。あれは少々変わった蝶なんです。彼らは幼虫の時に『言の葉』と呼ばれる葉っぱを食べて成長し、サナギになる。羽化して蝶になると、その蒼く輝く翅を広げ、どこまでも飛んでいきます。 その下にいるのは、残念ながらサナギをうまく紡げなかったり、羽化を諦めたり、飛べずに翅を捨ててしまった者たちです」 「こんなに美しい翅を持っているのに、空を飛べないまま一生を終えてしまうなんて、かわいそうですね」 「はい。ですから、お客様には、ぜひその翅を広げて飛んでいただきたいのです」 私は店主の言葉に返事ができずに、曖昧な笑みを浮かべた。テーブルに広げた原稿用紙には、何日も進んでいない空白の物語が記されている。 数日前までは、この店では美味しい食事が提供されていたが、今はメニュー表も下げられてしまっていた。 今はもう、空腹も疲れも眠気もない、ただひたすら言葉を紡ぐだけの、まさにカンヅメな空間。 ここは、物語の終わりのはじまり。 書き上げた作品は、蝶となって昇華する。 体をねじって後ろを見やると、私の背中にも濡れそぼった小さな翅がついていた。 私もこの翅を大きく広げて宙へ飛べるだろうか。それとも。 とうとう蝶の宴の幕があがる。
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