序章 最低だけどちょっとだけよかった誕生日

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序章 最低だけどちょっとだけよかった誕生日

――その人と出会ったのは十年前、中学生の時だった。 「お父様なんて大っ嫌い!」 「こら、待ちなさい……!」 子供っぽい台詞を吐いて家を飛び出る。 いや、十五にもなってこんなことを言うから父は、私の希望など聞いてくれないのかもしれない。 家を出たが特に目的はない。 少し考えて、街へ行って買い物でもして、ほとぼりが冷めるのを待とうと決めた。 私の父は日本三大銀行のひとつ、『こうの銀行』の頭取だ。 母は元大臣の娘で、伯父は国会議員。 こんな家庭環境で自分の将来が私の思いどおりにいかないのなんてわかっていた。 それでも少しでいいから私の夢を叶えたくて高校の進路希望を正直に書いた結果、父と大喧嘩になったというわけだ。 街へは来たが、特に買いたいものがあるわけでもないのでふらふら見てまわる。 それでもお供なしで出歩くなんて滅多にないので、それだけで気分転換になった。 「あ、こういうのも可愛いー」 洋服店で最近の流行をチェックする。 私の趣味……というか夢は洋服のデザイナーで、いつか自分のブランドが立ち上げられたら、と思っていた。
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