第一章 自由の終わりと25歳の誕生日

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次々に手が上がり、会社を出るときには私を含めて八人になっていた。 行きつけの、イタリアンバルの一角を占領する。 「じゃ、鴇田の門出を祝して。 乾杯」 「かんぱーい!」 古手川課長の音頭で乾杯する。 「しっかし、帰ってきて結婚しろとか鴇田さんも大変だね」 「ほんと、ほんと。 もう令和なんだから放っておけって」 「あー、……うん。 まあ」 適当に笑って言葉を濁す。 周りには二十五になったら結婚するように親から決められているとしか伝えていない。 実家も、地方の農家という設定にしてあった。 彼女たちは本当のことを知っても、同じように怒ってくれるだろうか。 しかし大学時代、私の親の正体を知って態度を変えた人を散々見てきたので、言う気はなかった。 「旦那になる人、上手く説得できるといいな」 「頑張り、マス」 隣に座った古手川課長と小さくグラスをあわせる。 彼には私の両親のことを話してあった。 知ってなお、普通に接してくれる貴重な人だ。 私の、会社を辞めたあとの計画も知っている。
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