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「お前はいつも正しく完璧でいろ。」
子供の頃から親父がいつも口癖のように俺に言ってきた言葉だ。
実際親父は絵に書いたような完璧主義者で、一切妥協を許さなかった。
そんな姿勢から仕事はいつも完璧にこなし、大手企業の社長の座にまで上り詰め、その勢力は海外にまで広まる程になっている。
そして俺はそんな親父を見て育ったからか、小さな頃から大体の事は人並み以上にこなしていた。
そんな俺を親父は認めてくれていたのだ。
「お前になら将来我社を任せても良い。
お前こそ我が子に相応しい。
だが…」
そう、俺の事だけは認めてくれていた。
「茜、お前はなぜそんな事すら出来ないんだ?」
「はい…ごめんなさいお父さん。」
「そんな言葉はいらん。
口よりも体を動かす事を覚えたらどうだ。
いや、まずは頭からだな。」
「はい…。」
妹の茜の事を、親父は全く認めようとはしなかった。
いや、そもそも実の子供だとさえ思っていないのかもしれない。
ただ一応は育てる義務のある同居人、ぐらいにしか認識していない。
そんな仕事ばかりで実の娘を人とも思えないような非情な親父に愛想を尽かして、母さんはある日置き手紙を置いて行方をくらました。
そこには、もう今の暮らしに限界を感じた事、俺達二人には申し訳なく思っている事そしてこれからも元気でいてほしい事などが書いてあった。
茜にも優しかった母さんが居なくなり、必然的に茜は以前より暗くなった。
俺はと言えばマトモだと思ってたし何よりも俺たちの味方だと思っていた存在にそうして裏切られた事で結局母さんも人間で、嫌な事があれば実の娘も息子も簡単に捨てて姿を消せる程非情な人間だったのだと何となく思った。
申し訳なく思うのなら何故一人で逃げたのか。
せめて茜だけでも連れていく心は持ち合わせていなかったのか。
と、思う事はいくらでもある。
でも結局それが出来なかったのは結局今の自分が一番大事でそれだけしか無かったからに他ならなかった訳で。
そう考えたら結局非情な人間は非情な人間に引かれる物らしい。
そして曲りなりにもこれまで世話になった母親の気持ちを考えなどせずそんな事を思う自分も、また非情な人間なのだろうけど。
「茜、大丈夫か?」
「うん、また怒られちゃった。
私、ほんとダメだね…。」
「そんな事ない、茜だって頑張ってるんだ、気にするなよ。」
それからの暮らしは大きく変わった。
仕事で海外出張も多い父は基本家には居なかったが、たまに帰ってくれば俺を褒め、そしてこんな風に茜を責め、当面の生活費を置いてまた仕事に行ってしまう。
故に母さんが出て行った後は家族の時間なんてものは全く無かった。
そして俺と茜にとってはそれが普通の日常へと変わっていった。
今は別にそこに不満がある訳でもない。
「ありがとう、ご飯作るね。」
実際俺も親父の事はお金をくれる同居人ぐらいにしか思っていない。
それに俺は茜と二人で暮らす生活が気に入っていた。
「私ね、お兄ちゃんと同じ学校に行こうと思ってるの。」
「おぉ、茜頑張ってたもんな。」
「うん、でももっと頑張らなきゃ。
そしたらお父さん、私の事も見直してくれるかな?」
「どうだろうな、まぁでもあんな奴に認められなくたって大丈夫だよ。」
「うん…。」
母さんが出て行ったショックで最初は塞ぎ込んでいた茜だったが、こんな生活に慣れたからかこうして食事しながらの会話も増えた。
本当に良かった。
絶対に茜を認めようとはしない父親も俺達を見捨てた母親が居なくても、俺だけは茜の味方でありちゃんとした家族でいてやりたい。
そう思ってこれまでもやってきた。
そんな想いが茜に伝わったのかなと思えて嬉しかった。
でも、同じ学校に行きたいと言う茜の純粋な願いを素直に喜べない自分も居た。
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