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「すみません。
今日、閉店時間を少し早めてもらえないでしょうか。
あちらに早く戻りたいんです」
スタッフが大浴場の点検をはじめる前に戻れれば、なにも問題ないはずだ、と思い、壱花はそう訊いてみた。
がめついオーナーは聞いてはくれないだろうと思っていたのだが、そろばんを弾く手を止めたオーナーは顔を上げ、
「まあ、いいだろう」
と言う。
えっ? と壱花と冨樫は身を乗り出した。
「あの臨時店長のおかげで、今日は殊の外よく売れたからね」
「そうなんですか?」
「ああ、ビールが足らなくなって、途中で仕入れていたようだよ」
すごいな、斑目さん……。
生活に疲れたサラリーマンの人たちが、牡蠣の匂いにつられて、ビール買ったんだろうな……。
出る前に見た、ビールを手にして、牡蠣が焼けるのを待つ人々の列を思い出す。
自分たちがいない間も、斑目と生活に疲れた(?)斑目の部下は、せっせと牡蠣を焼いてくれていたようだった。
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