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老人がちゃぶ台まで歩いて来ると、俺を前にしておもむろに正座になった。このじいさん、近所で見たことがあったな。
「あっ!」
しげじいさんだと思い出した。本名は覚えていないけど、親しみを込めて近所ではしげじいさんと呼ばれていたな。しげじいさんは童心に帰ったような目で俺を真剣に見つめた。
「なんだ、このじいさん。目がキラキラしているな。俺を買った人はしげじいさんなんだろうか?」
しげじいさんは俺に一瞥を投げると、目を閉じて、神妙な顔つきになり、重々しく口を開いた。
「スマートオン様、これより開封の儀式を行うとするかのう!」
「どういうことだ? 何が始まるんだよ!」
いろんなことが気になって、笑いを堪えられなかった。心の中で手を叩いて笑った。
「スマートオンじゃなくてスマートフォンだ。スマホの箱を外すだけなのに大袈裟だ」
しげじいさんは大きく腕を広げて柏手を二回打った後、深く腰を曲げ二礼をした。スマホを崇め奉っているようだ。
「これはただのスマホで、神物ではない!」
「さてと、開けてみるとするかのう」
「開けるまでが長いな」
しげじいさんはおそるおそる箱を開けた。俺の本体と向き合って、唾を飲み込ながら、つぶらな瞳でじっくり見ると、そっと箱を閉じた。
「えっ、また箱の中にもどすの?」
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