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しげじいさんは胡座に座り直して、漆塗りの湯呑みに入っている緑茶を啜る。満足そうに深い息をついた。
「今日はこんなもんでいいじゃろう」
「いや、ただ箱を開けただけだよね!」
しげじいさんは満足しながら、俺を常に側に置いて一日を過ごした。眠る時も枕元に俺を置いていた。同棲している気分になった。どうやらしげじいさんが俺の購入者らしいと気づいた。
その日から俺はしげじいさんのスマホになった。
翌日、しげじいさんは昨日と同じように開封の儀式を行なって、箱から俺の本体を取り出して向き合った。しばらく首を傾げ唸っていた。
「おかしい。ボタンがどこにもない。故障しとるのかのう?」
「いやいや、表面にボタンがついてない機種もありますから」
「店で見た時はどこかにボタンが隠れておると思うとったが、店員さんの手品かのう」
「いやいや、家電量販店の店員がいきなり手品はしませんよ!」
「携帯は昔、触ったことがあるが、スマートオンは随分違うのう」
しげじいさんは触ることなく、いろんな角度から俺を眺めて、しきりに唸っていた。それから、しげじいさんは偶然、スマホに触れたことから悪戦苦闘して、スマホの初期設定をするのに丸一日かかった。
「いやあ、疲れた。こんなに疲れたのは生まれて初めてじゃ」
「初期設定は疲れますよね」
「明日は、とうとうリネをやってみるとするかのう」
「リネってなんだ?」
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