しげじいさんのスマホ

5/7
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 しげじいさんは湯呑みにスマホを立て掛けると懐かしそうに一枚一枚ノートを捲った。そこには八年間に及ぶ妻と娘のLINEのやりとりが全て手書きで書かれてあった。一文字ずつ強く書かれたノートはしげじいさんが込めた感情が浮かび上がってくるようだった。  娘と話せない悲しさ、自分を曲げられない苛立ち、妻とやりとりしてくれる感謝、さまざまな感情がそこにはあった。俺は八年間の深い感情に胸を締め付けられ涙を堪えきれなかった。 「わしが意地を張って裕子と連絡取らない代わりに、ばあさんと裕子のやりとりを書き写して、もう八年になるのか。あまりにも長かったのう」 「じいさんにとって、LINEのデータは大切なものだったんだ。八年間のやりとりが全部手書きなんて、仲直りして自分もLINEをすれば良かったのに、不器用過ぎて涙が出る」  しばらくすると、LINEで友達追加されたことが通知された。しげじいさんは目を細めて頬を緩めた。  しげじいさんは、LINEで裕子さんに一所懸命に文字を打った。ばあさんとLINEをしてくれて嬉しかったこと、仲直りがしたいこと、ばあさんが亡くなったことを伝えた。  LINEを送ると、裕子さんからすぐに電話がかかってきた。しげしいさんは電話番号を教えていないのにかかるとは思わなくて慌てた。LINEは電話番号を知らなくても通話できることをしげじいさんは知らなかったようだ。 「お父さん、お久しぶり、裕子です。お母さんが亡くなったって本当なの?」 「元気な声が聞けて嬉しいなあ。母さんは三ヶ月前に亡くなった。線香をあげてくれんかのう」  裕子さんの声が一瞬詰まった後、啜りなく声が聞こえた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!