しげじいさんのスマホ

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 家電量販店でスマホ販売をしている俺は、夜遅くまで在庫整理をしていた。そこに突然、漆黒のローブを纏った魔法使いが現れ、その店のスマホに変身させられた。  魔法使いが変身させる時に言った言葉が脳内で響き渡る。無機質なスマホになって惨めさを味わうがいいと感情のこもった声で言いながら魔法使いは消えて行った。  突然スマホにされた俺は何が起こったのかわからず呆然としていた。自分が働いている店のスマホの在庫になったことに時間をかけて気づいた。奇異な状況を受け入れると、全く動けないスマホにされて激しく憤慨した。  閉店した店の中で、元に戻ろうと四苦八苦していたが、体を動かすことは全くできなかった。声は出せるのだろうかと思って出してみた。 「誰か、助けてくれ! 俺は元は人間なんだ!」  大声で叫んでも、声は虚空に消えて、静寂が強まった。誰もいない店内で何時間も必死に奮闘したが、人間に戻ることはなかった。  息絶え絶えになった頃、店の蛍光灯が光り、開店の準備が始まった。準備をしている先輩や後輩に声をかけたが、全く聞こえることなく、孤独を強めていった。声は出せるけど、人に聞こえることはないという事実を認識していった。  しばらくして、店が開店すると同時に店内アナウンスが流れた。 「いらっしゃいませ。機械屋工房にようこそ。当店で安くて優れた電化製品をお買い求めください。本日も宜しくお願いします!」  店内アナウンスを聞きながら、声を出し過ぎて満身創痍となり、騒がしい店内と対照的に静かに眠りについた。  目が覚めると、場所が機械屋工房から庶民的な和風の家に変わっていた。畳の部屋にちゃぶ台があり、その上に俺は置かれていた。どうやら自分が購入されて、この家に来たのだと勘づいた。イグサの匂いがする部屋で、ゆっくりした足音が近づいた。 「俺を買った人は誰なんだ? 俺を人間に戻せたり……するわけないよな」
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