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男の子の名前は、カナ――といってもこれは、仮の名だ。彼はある無念のうちに亡くなった人々の願いが常現世に結晶して形となったもの、だという。
本音を言えば成海もよく理解してはいないが、カナなくして雪魚堂の百鬼夜行は立ち行かないほど重要な存在であり、成海も幾度となく危ないところを助けてもらった。生まれとともに課された彼の宿命を、ひとりきりで背負わせない――成海はそう固く胸に誓っている。
そして、女の子の名前は――小ナル。由来は単純明快、〝小さい頃の成海の姿〟だからであり、いわばもうひとりの成海というべき存在だ。
厳密に言えば、小ナルは成海を形成する多様な自我をひとつにまとめるとともに外部から守る、〝心の殻〟である。人は誰しもこうした心の殻を持ち、百鬼夜行に訪れる客人たちはこれを化けの皮に変じて異形のものに成り澄ます。だが成海の場合は、過去の出来事から自らの中に激しい葛藤を生じ、その結果心の殻を追い出してしまった。
そのため、自分自身が非常に不安定な状況下にあったのだが、様々な相克を経て再び心の殻を取り戻すことができた。
だが、一度分離したものは容易には元にも取らず、いわばリハビリを行っているのが現状だ。幼い日の姿をした自分自身と向き合う、というのはなんとも面映ゆいものだが、最近になってやっと少しは慣れてきた。
こうして小ナルとの交流を深めてまたひとつの自分になるとともに、カナの定めを分かち合うための方法を見つける――それが、今成海がこの雪魚堂を訪れる理由だった。
「あれ、魚ノ丞さんは?」
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