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だが彼は答えず、あたふたと足をバタつかせながら、座敷の三面を仕切る障子の一つに手を掛けた。
「そうこうしている間にお出迎えの時限が来ちまいました! ちょっと行って参りますんで、お嬢さん、留守をどうぞ何卒よろしくお願いしますよ!」
「ひとりで大丈夫ですか、魚ノ丞さん? 留守番なら小ナルもいるし、そんな大事な方ならあたしもお出迎えに行ったほうが……」
自分が身分もへったくれもないただの人間であるのは成海も承知の上だが、出迎えの際に頭数を揃えるのは基本だ。いないよりいたほうが、と彼の後に着こうとしたが、魚ノ丞はきっぱりと頭を振った。
「いや、待ち合わせに指定された場所はほぼほぼ常世なのでね、現身のお嬢さんに万一何かあってはならんですから、大丈夫でござんすよ」
「そうですか……? あ、じゃあ何かお出迎えの準備とかしときましょうか」
そう訊くと、さっきまで余裕を丸ごと成層圏にブン投げたようだった魚ノ丞が、ほんの少し落ち着きの戻った微笑みを返す。
「いつもどおりのあなたでよござんす。かざらず、きどらず、そのままのお嬢さんでお出迎えくださいな」
当然とそう言われて、成海は呆気に取られる。いつもどおり、と意識すると逆にそこから遠ざかってしまいそうでむしろ難題じゃなかろうか、などと考えていると、
「そうだ、念のためにこれを」
と、魚ノ丞が袂からなにか取り出し渡してきたので、おずおずと受け取る。
手のひらにコロンと収まるサイズのそれは、紙で作ったお守りだ。
「どうにも、おかしな予感がするのでね……杞憂で終わりゃいいんだが、とにかくこれを肌身離さず持っていてくださいな」
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