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水を向けられた毅一は、バツが悪そうに視線を泳がせた。
「え? あはは、えーっと、そりゃあ……」
「い、今どきはSDGsとか言うくらいだし? ダシを取るためだけにたくさんかつお節とか昆布とか使うのももったいないかなーって」
訊かれてもいないのに早口で割って入った成海は、しまった、と口端を引きつらせる。折角毅一が庇ってくれようとしたのに、わざわざ犯人は自分ですと白状してしまったようなものだ。
昨年、様々な要因から職を辞した彼女は、その時点で一番身近だった祖母の家に居候させてもらうことになった。当初は早く次の仕事を見つけて独り立ちしなければ、と息巻いていたものの、焦っても前職での二の轍を踏むだけと気づき、しばらく己を見つめ直して過ごそうとした。
……のはいいが、タダ飯食らいというのはどうしても性に合わず、家事全般を取り仕切る毅一に頼みこんで、少しずつでも手伝うようにした。
とはいえ、几帳面な毅一の仕事を真似ることすら大雑把な成海には一大事で、そのくせ自己流にアレンジしようという意欲だけは有り余っているので始末に終えない(中途半端なダシも毅一に指示された分量を「……こんなに入れなくても大丈夫じゃない?」と勝手に減らして生み出された産物である)。
そのため方々で穴が出て、その都度菜穂海に苦言を呈される。短気でガンガン怒鳴るらんばかりの祖母のダメ出しも、今日はさすがに呆れが勝った。
「成海、家の中のこと手伝いたいって気概は認めるが、雑な仕事じゃあやらないほうがなんぼかマシさね。毅一、おまえも甘やかして適当を教えるんじゃないよ」
「はいっ! すみません、師匠」
「雑じゃないもんっ! こうして当たり前のルーティーンにメスを入れることで生産性・効率性をインプルーブする、そう、いわば現代社会におけるマストアクションで、」
「はいはい、わかったわかった」
菜穂海は成海の皿からひとつ、ダシ巻き卵をかっさらっていった。
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