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成海もまた、そうして雪魚堂の百鬼夜行に招かれた客であった。本来、己の情焔が鎮まれば自然と現世へ戻り、雪魚堂や夜行で過ごしたことは忘れてしまうらしいのだが、成海は少しイレギュラーな関わり方をしたためにまだそこまでには辿りついていない。
彼――雪魚堂の店主名代は焦らず自分のペースで過ごすことこそ一番の近道だと笑いながら言った。
かつての――雪魚堂を訪れる前の成海であれば、到底受け入れられない言葉だ。社会のどこにも居場所を見つけられずにもがいて足掻いて必死に生きていた彼女は、しかし、だからこそ何を見失ってしまっていたのかにやっと気づけた。
(二五歳にもなってようやく、だけど)
心うちで苦笑しつつ、成海は今日も雪魚堂の戸を開ける。
そして、
「おはようございます!」
「遅いぞ~ナルミ!」
挨拶と同時に飛んできたやんちゃな声。
成海が戸を閉めて中に入ると、整然と並んだ戸棚の向こう、店の片隅においてある机で子どもがふたり落書き遊びしていた。
ひとりは、髪も来ている甚兵衛も黒く、肌も浅黒い男の子。
もうひとりは、冬なのにショートパンツを穿いて見るからに元気が有り余っている女の子。
一〇歳前後のありふれた小学生に見えるこのふたりは、その実まったく見た目どおりの存在ではない。
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