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02
どうやら風子は、花が現在付き合っている四人の男に、はっきりと別れ話をしたのかが気になっているようだ。
花は少し不安そうに訊ねてきた親友に答えた。
連絡を無視していれば、そのうち自然消滅するだろうと。
花の言葉を聞いた風子は、両目を見開いて彼女の両肩を両手でつかむ。
「してないの!? それはヤバいって!」
それから風子は畳みかけるように喋り始めた。
花がキープしている男たちの年齢は全員二十代後半から三十代後半。
真面目に結婚を考えている人間ばかりだ。
そんな相手を急に無視し続けたら、かなり面倒なことになるのではないかと。
「もう、心配しすぎだよ、風子は」
「じゃあ、こう考えてみて。もし花に遺産が入らなくて婚活を続けていたとする。そのときに、いきなりその男ら四人全員と連絡取れなくなったらどうする?」
「家まで押しかけてドアをガスガス蹴りながら叫びまくる。……ハッ!?」
「やっとわかったみたいね」
表情を変えた花に風子は話し始めた。
そもそもストーカー被害は恋愛がらみものが多く、元ストーカーの人間たちが語るに、元々は相手とデートする間柄だったが、突然避けられるようになると――。
“かえって執着した。自分をわかってほしい、わからせてやると、憎しみ、怒り、殺意が芽生える”
そういった感情が湧き上がり、つけ回すようになったようだ。
花が付き合っている男が全員ストーカー化するとは言わないが、今花が自分で口にしたように、事情を知りたいと家まで行くことは大いにあるだろう。
結婚まで考えて付き合っていた相手に当然無視されるようになったら、そういう態度に出るのが人間の性ともいえるかもしれない。
ダメか、じゃあ次に行くかと、そうそうなれないのが人の気持ちというものだ。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「そこは直接会って話すしかないよね。それでも四人もいたら一人くらいストーカーになるかもだけど」
「そんなのどうしようもないじゃない!」
花は両手で頭を抱えて声を張り上げた。
確実に結婚するために、いや、できる限り満足のいく結婚生活を送るために、四人もの男をキープしていたことが裏目に出たと、自分のしていたことを後悔し始めていた。
だが、風子にはいい作戦があると言う。
「太宰治を参考すればいいんだよ」
「太宰って……あの小説家の?」
首を傾げた花に風子が説明を始める。
太宰治とは『人間失格』や『斜陽』、『走れメロス』といった作品で知られる、日本の文学作家。
多くの名作を残した太宰治だが、恋や人生に悩み、その生涯は波乱万丈なものだった。
その文豪の作品の一つ――『グッド·バイ』という話に、花の現状とよく似ている主人公がいると、彼女は言う。
「その主人公は男なんだけど、結婚しているくせに愛人が十人もいてね。その関係を清算するために、すごい美人に頼んで自分の奥さんという形になってもらって、それを連れて愛人たち一人ひとりのところを回るんだ」
「クズだな、その主人公……。私も人のことは言えんけど……」
花は自分を棚に上げながら嫌悪感を露わにした。
しかし、すぐにその物語の結末が気になって訊ねたが、風子の話によるとその小説は未完の作品だそうだ。
「その小説を元ネタにした『バイバイ、ブラックバード』っていう話もあるよ。そっちは完結してる。あんたも伊坂幸太郎なら知ってるでしょ?」
「名前だけは知っている。でもその話を参考にするなら、すごい美人というか、私の場合はすごいイケメンを用意しなきゃいけないわけで……。まずそんな知り合いがいないんだけど」
「そりゃそうだ。そんなイケメンが知り合いにいたら花がとっくにキープしてるわ。……こうなったらあたしの人脈を駆使して、すごいとは言わんでもイケメン風の男を見つけ出してやる!」
「頼むよ風子! 私たちの未来のためになんとしてもイケメンを! いやイケメン風の男を!」
風子はグラスに入ったシャンパンを一気に飲み干し、自分のスマホを手に取った。
彼女は恋人こそいないが男女問わず繋がりが多く、いろんな飲み会に参加している。
その中で知り合った人間の中に、一人くらいイケメンがいるだろうと、スマホのフォトアルバムを指でスクロールしていく。
「これなんかどう? なかなかイケてない?」
「いや、私の相手にしては若すぎるよ。まだ二十代でしょ、これ」
「じゃあこっち」
「イケメン風でも薄毛とぽっちゃりはダメだって」
花も風子の横に並び、一緒になってスマホの画面にかぶりつく。
流れていく飲み会の画像を見ながら、二人は男の顔を判定していった。
「あッ! ちょうどいいのがいた! これはいいんじゃない? たしかこの人、四十歳とかいってたし」
風子が画像をアップした男は、たしかに整った顔をしていた。
その男はかなり若作りしているのか、四十歳というよりは二十代後半ほどに見える。
「この辺がいいとこでしょ」
「う~ん、まあそうか。服と髪型を変えればいけそうだし」
「よし! じゃあこれに決定! グッドバイ計画をスタートするよ」
風子はそう言うと、早速若く見える四十男にメッセージを送った。
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