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01
都内にある個室レンタルスペース内で、女性二人がゲームをやっていた。
様々なシリーズのキャラクターが出ている有名な対戦アクションゲームだ。
二人は大画面に向って、まるで子供のように声を出しながらプレイに熱中している。
「ああッ!? また落とされたッ!」
「これで私の三連勝ね。腕が落ちたんじゃない風子?」
「うぐぐ、そういう花はまた上手くなったんじゃないの。今のあんたにはもう勝てる気がしないわ~」
「じゃあ、やめよっか。そろそろピザが来る時間だし」
花と呼ばれた女性はそういうと、持っていたコントローラーを放り出して冷蔵庫へと手を伸ばした。
立ち上がればいいのに面倒なのか、寝っ転がって冷蔵庫の中からシャンパンを取り出す。
彼女のフルネームは渡花。
年齢は三十四歳で、都内にある出版社で雑誌の編集の仕事をしている。
花がシャンパンを出すと、佐々木風子が、備え付けのテーブルの上にグラスを用意した。
彼女は花の同級生で、十代の頃から付き合いのある仲だ。
二人は年に何回かこうやって集まり、日頃のストレスや疲れを取っている。
花がテーブルにシャンパンを置くと、部屋のチャイムが鳴り、注文していたピザが届いた。
それから二人は届いたピザを開封し、買ってきていたシャンパンをグラスに注ぐ。
宅配ピザもスーパーマーケットで買えるシャンパンも、けして高いものではないが、彼女たちは女子同士での集まりならこれで満足だった。
趣味の合う友人とのひとときに、特別高級なものはいらない。
こうやってたまにあって話ができて、それなりに美味しいものがあればそれでいい。
それが花と風子の考えだ。
二人は互いの近況を、ピザをつまみにシャンパンを飲みながら話していた。
酒もすすみ、どうでもいい会話をしていると、突然風子が何かを思い出したかのように言う。
「そういえば花。あんた、あの男らとはどうなったんだよ?」
「へ……? ああ、あいつらのことね。もういいんだ、男は」
「えッ!? だってあんた! あれだけ結婚するって息巻いてたじゃん!」
驚いてテーブルに身を乗り出した親友に、花は余裕の笑みを浮かべて見返す。
以前の花は、自分の将来と出版社の未来に不安を覚えており、結婚することで安心を得ようとしていた。
そのために様々な場所に出会いを求め、その結果として四人の男をキープしていたのだ。
だが彼女にはもう将来の心配がなくなった。
それは花が三十歳になったばかりのときに、両親が立て続けに亡くなり、その遺産が入ったからだった。
花は両親の遺産をすべて現金に変えると、とある動画サイトで見た資産情報で得た知識で株を購入。
最優良と呼ばれている米国のインデックスファンドに三千万円すべてをつぎ込み、それは今も膨れ上がっているという。
もちろんいつ起きるかわからない株の大暴落への対策も考えており、花の保有する米国株は資本主義経済が続く限りは、必ず元の値まで戻り、増え続けるようだ。
「す、すごいよ、花……。やっぱあんたは昔からすごい……」
花が男がいらなくなった理由を聞いた風子は、しょんぼりとした顔でテーブルに顔をつけた。
株で未来が約束された花と違って、これまでなんの努力もしてこなかった彼女はここ数年恋人もできず、ただコールセンターのテレフォンオペレーターの仕事をしているだけだった。
しかも正社員の花とは違って派遣社員。
正直、以前の花以上に未来がない状態だ。
元々風子は将来のことはあまり考えないようにしていただけに、知らなかった親友の成功を聞いて、自分はダメだなと落ち込んでしまっていた。
「なに言ってんの風子。私はもう結婚しなくていいんだよ」
「それがどうしたんだよぉ。あたしの未来とは関係ないじゃん……」
「それがあるんだって。いい? 考えてみなよ。男がいらないってことは、私と風子は一生一緒にいられるんだよ!」
花が声を張り上げると、風子は瞳を潤ませて親友に抱きついた。
風子がまるで恋人に甘えるようにすがりつくと、花はそんな彼女の頭を優しく撫でてやる。
「うぅ……花、花ぁぁぁ!」
「よしよし、泣かない泣かない。あんたは今日から私の嫁だ」
「うん。あたし、一生花から離れない!」
花は胸の中で泣く親友を慰めながら思う。
自分たちが若い頃は、女の友情など砂上の楼閣などと考えられていたが、今では時代が違う。
男どもは疎遠になりやすく、会社の人間としか交友を持たなくなる。
それと比べて自分たちはどうだと。
そうはいっても、花は婚活をしていた頃に多くの女友達を失った。
先に結婚した友人からは次第に距離を置かれるようになり、結婚に否定的だった友人は彼女のことを小馬鹿にした。
花のことを、ずっと親身になってくれていたのは風子だけだった。
あのときに風子がいなかったら、確実に病んでいただろうと花は思っている。
だからこそ今度は自分が親友を支えるのだと、花は得意気になってシャンパンを飲み干す。
それから二人は騒いだ。
午前中から借りているレンタルスペースは夜まで使用できるため、これでもかと羽目を外した。
その様子は、これからも自分たちはずっと一緒なのだという儀式でもするかのようだった。
「ねえ、花。ちょっと気になったんだけど。あんた、男らとはちゃんと切れているの?」
互いにかなり酔ってきた頃、風子がふと訊ねた。
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