孤独な蝶は夜の街に身を隠す

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「そういえばもうじき桜ちゃんの誕生日ね?」  「はい」 「二日間、バースデーイベントをやるんでしょ?」 「そうなんですよ。みなさん時間を割いて来てくださるわけなので、楽しんでいただきたいと思っています」 「綺麗なだけじゃなくて気遣いもできる、そういう優しい桜ちゃん好きよ」 「私も渚さんのことが好きです」 「あら。両想いね」 「ふふっ。そうですね」 「バースデーイベントのときは、とびっきりに可愛いお姫様に仕上げてあげるから、二日間楽しんでね」 「ありがとうございます」 渚さんと過ごすこの時間は、私にとって数少ない心が安らぐときだ。 ヘアセットを終えドレスに着替えると、ほんの数分のところにある職場へと向かう。 今日はドレスの柔らかい雰囲気に合わせて、髪もふんわりと編み込み、シニヨンスタイルにしてもらった。 今から私は夜の蝶になり、〝桜〟としてお客様の前に立つ。
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