孤独な蝶は夜の街に身を隠す

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とにかくお店の外でふたりきりで会いたがり、連絡も頻繁に来る。店にもよく顔を出して〝自分の女になれ〟と迫ってくる。もちろん丁寧に断りうまく交わし続けているが、正直めんどくさい。 これが仕事でなければ、蹴りのひとつやふたつお見舞いしてやりたいところだ。 それでも栗生さんはいつも高いお酒を落としてくれる太客なので、つんけんした態度がとれないというのもまた事実だ。 栗生さんを見ていると、傲慢で自信家で自己中心的な父とかぶる。 もともと家を飛び出してから、私は住み込みの仲居の仕事をしていた。そんなときに街で弥生ママに声を掛けられ、この世界に飛び込んだ。 右も左も分からない私に弥生ママはいろいろ優しくしてくれたし、アドバイスをしながら見守ってくれた。 タバコも嫌いだしお酒も強くない。お金持ちになりたい、ナンバーワンの座にずっとい続けたい、などという野望もない。 ママに恩義があるから私はここで働いている。少しでも弥生ママに感謝の気持ちを返せているだろうか。
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