孤独な蝶は夜の街に身を隠す

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*** 「桜ちゃん、今日も相変わらず可愛いな」 「ありがとうございます。お隣失礼しますね」 本日、ひとり目の指名客の方が来店され私はさっそく席についた。 「もうじき桜ちゃんの誕生日だな。今年はなにがほしい?」 「早乙女さんにはいつもよくしていただいているので、お店に来てくれるだけで嬉しいですよ」 「またまた嬉しいことを言ってくれるから、盛大に祝いたくなっちゃうんだよな」 「本当に早乙女さんには感謝してもしきれないです」 お酒を作ろうと氷とウイスキー、そして水を適量グラスに入れ、マドラーを手に取りくるくるとかき回す。 「お酒を作るのもすっかり板についたな。最初の頃のぎこちなさと言ったら……そわそわしながら見ていたよ」 「ふふ。早乙女さんの指導のおかげですね」 「なら通い続けた甲斐があるな」 やわらかな笑みを見せる早乙女さんは、四十代半ばの恰幅がいい男性だ。私がここで働いて初めて指名を入れてくれた人。 私がこの店で何度かナンバーワンを取れたのも、早乙女さんの存在があったから。彼はIT関連の仕事をしていて億ションに住んでいるセレブだ。 でも偉ぶることもなく、とても紳士的で私と一定の距離を保って接してくれる。彼のようなお客さんばかりならば、変に思い悩むこともないのだろう。
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