孤独な蝶は夜の街に身を隠す

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彼とはよく同伴やアフターをする。弥生ママとも付き合いが長く、ママにも信頼されているお客さまだ。 いろんな美味しいお店に連れて行ってくれる。お店でも高価なお酒を入れてくれるし、今度の誕生日にはシャンパンタワーを入れてくれる予定だ。 でも、彼は見返りを求めない。押しのアイドルを応援するような気持ちだと言って彼は笑う。 自分が育てた女の子がいちばん高いところでキラキラと輝いてくれることが嬉しいのだと言ってくれるのだ。 そんな早乙女さんだからこそ、来店中は現実世界を忘れて心から楽しんでほしいと思う。 生活の為と思って始めたこの仕事だが、今はたくさんの人に出会い荒んだ心が少しだけ軽くなったのも事実だ。 繋がりや絆などという煩わしいものをどこか嫌っていた私が、そんな感情を抱くとは自分でも意外だったりする。 「今日はありがとうございました」 「誕生日イベント、必ず来るから」 「嬉しいです。お待ちしていますね」 最後の指名客をエレベーター前まで見送り、今日も一日の仕事が終わった。私が桜から葵に戻る瞬間だ。 バックルームに戻りゆっくりと帰り支度を始めた。今日はアフターするお客様はいないのでこのまま家に帰ってゆっくりと身体を休めよう。 直に迫った誕生日イベントに万全のコンディションで臨みたいのだ。それは日頃私を支えてくれるお客様に感謝の気持ちを伝える場でもあるから。 それにその日はいつも以上にお酒を飲むことになるだろうから、体調を整えておかないと二日間を走り抜けることは厳しいと思うからだ。 時刻は午前一時を回ったところ。お店を出てタクシーを捕まえようと大通りに出たその矢先、
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