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「桜、いったい何分待たせるんだよ。遅すぎるって!」
席に着いた途端、栗生さんは明らかに機嫌が悪そうに顔を歪めた。そして隣についた私を自分の方へと引き寄せて私の腰に手を回す。
私が席に着くまでにだいぶお酒を飲んでいたようで、すでに出来上がっている状態だ。
いつも以上に絡んでこようとする。厄介だと思いながらもそれを顔には出せないので、精いっぱいの営業スマイルで返す。
「遅くなってごめんなさい。今日は来て下さって嬉しいです」
「もうちょっと俺のことを特別扱いしてくれても、よくないか?」
「栗生さんには、本当に感謝していますよ。そういえば、こないだ新ドラマが始まりましたね。毎週かかさず見ています」
「マジで? どう俺の演技?」
「ヒロインと出会うシーンで、さりげなく傘を差すところが紳士的でカッコいいなって思いました」
「ちゃんと観ているじゃん。あのシーン俺のアドリブだったんだ」
「さすが栗生さんですね」
少し褒めると栗生さんの機嫌は直って、その場の雰囲気もすごくよくなった。いつも以上にお酒を入れてくれて、どんどん飲ませようとしてくる。
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