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「そのくらいにしておいたらどうですか? 彼女、嫌がっていますよ」
男の人の声が耳に届き、視線がそちらへと流れた。
目に飛び込んできたのは、シルクの細身のブラックスーツに身を包んだ長身の若い男性。モデルのように整った顔が私たちを捉えていた。
「おまえなんなの?」
栗生さんが怒りに満ちた顔を浮かべながら、声をかけてきた男性の方へと歩み寄り彼の胸倉を掴んだ。
カシャッ、カシャッ──
と、次の瞬間カメラのシャッター音が響いた。
「あなた今大人気の芸能人に似ていますね。名前は、えっと確か……」
「おまえ何者だ?」
その男性の思わぬ行動に、一気に栗生さんの顔が引き攣っていくのが分かる。
「俺はただのしがない週刊誌の記者ですよ」
「き、記者? 卑怯な手をつかいやがって。おまえなにが目的なの? 金か?」
栗生さんの苛立ちを含んだ声が響く。すごい威圧的な態度だ。それでも割って入ってきた彼は、実に落ち着いていて動揺する素振りは見せない。
「彼女を解放してくれたらそれでチャラにします」
え?
思わず彼の方を見た。
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