孤独な蝶は夜の街に身を隠す

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「戸惑ったような顔をしているのは、自分の状況がまだよく呑み込めていないから?」 「それは、その……」 「それとも僕が週刊誌の記者じゃなくて医者だったから、かな?」 彼はクスッと笑いながら、ベッド横にある丸椅子に腰を下ろした。 「どっちもです」 「そうか。あれは、彼を追い払うために言った嘘ですよ」 「嘘……?」 「はい。僕はここで消化器外科医をしている七瀬(ななせ) 陽斗(はると)と言います」 「お医者さん……だったんですね」 「ええ。今から順を追って説明しますが、その前にまずはあなたのお名前をお聞きしてもいいですか?」 「……と、藤堂葵です」 その名を口にすることに抵抗はあったが、嘘を吐くわけにもいかず渋々、口にした。 「藤堂葵さん、か。いい名前ですね」 「あり、がとうございます」 「後でいいので、こちらの書類に名前や住所など記入をして頂けますか?」 「あ、はい」 「それから保険証を今お持ちでしたら、そちらの方も見せていただきたいと思います」 「分かりました」 切れ長な奥二重の瞳が私を捉えた。シャープな顎ラインに目鼻立ちの通った綺麗な顔をしている、まさにイケメンドクターだ。 そしてスクラブの上からでも分かる、程よく筋肉がついた体格で黒の短髪ショートの髪型からは清潔感が漂っていた。
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