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手術は麻酔を含めて小一時間ほどで終了し、麻酔から目を覚ますとそこには懐かしい顔があった。
「マ、マ……」
「目が覚めたのね。気分はどう?」
「なんかすっきりしてる」
「そう。ならよかったわ」
母が安堵の表情浮かべながら私の頭を撫でた。母と会うのはいつぶりだろうか? もう昔すぎて思い出せてはいない。
緊急で手術を受けることになった私は母に連絡を入れた。
母はすぐに執事の須藤さんとともに病室に駆けつけてくれて、入院に必要な身の周りのものを揃えてくれ、手術が終わるまで付き添ってくれたのだ。
「迷惑をかけてごめんなさい」
「なんで謝るの? いろいろ無理をさせてしまって、私は母親失格ね」
母の申し訳なさそうな表情が目に映る。しばしの気まずい沈黙が流れた。
私たち親子は複雑だ。
私が家を飛び出してから、会う事さえままならない。母のことが嫌いなのでは決してない。
父への反抗心が私をあの家から遠ざけているだけ。
「痩せたように見えるけれど、ちゃんと食べているの?」
「うん。食べているから心配しないで」
「まだあそこの店で働いているそうね?」
須藤さんからいろいろ話を聞いているのだろう。
「ええ。お世話になっているわ」
「そうなのね。とにかく無理はしないで、大変なときは頼ってほしい」
「分かった。これからはそうするようにするね」
とは答えたものの、きっとこの先もこんなギリギリの状態にならない限りは頼ることはしないだろう。
母もそれを分かっているのか、どこか切なげに笑い私の手をギュッと握り返す。
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