孤独な蝶は夜の街に身を隠す

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トントン── 母と会話をしているとノック音が響き七瀬先生が顔を出した。実は七瀬先生が私の手術の執刀をしてくれたのだ。 「体調はいかがですか?」 「腹痛もなくなり、身体が楽になりました。ありがとうございました」 「それならばよかったです。術後、抗生剤の点滴を投与していますが、明日にはそれも外せると思います」 「分かりました」 「なにかあったら遠慮なく声を掛けてくださいね」 「はい。ありがとうございます」 七瀬先生は、ふわりと笑い頭を下げると病室を出て行った。 「葵が目覚める前に、何度か様子を見に来てくださっていたのよ」 七瀬先生が部屋を出て行くのを確認すると、母はそう言って微笑んだ。 「そうだったんだ」 「手術の説明もとても丁寧にしてくださって、本当にいい先生に助けてもらってよかったわね」 確かに母が言うように私はツイていたと思う。栗生さんの件から手術に至るまで、七瀬先生には感謝してもしきれないほど助けてもらった。 退院をしたらきちんとお礼をしよう。 そう心に決めて過ごした一週間だった。母は毎日のように私に会いに来てくれた。しばらくぶりに母といろいろ話せた気がする。 七瀬先生が言うようにお腹の切開創はまったくと言っていいほど目立たず、順調に回復退院日を迎えた。 先生にお礼を言おうと思ったが、彼はその日休みで気持ちを伝えることができなかったのが、心残りだ。 後日、お礼に行こうともしたけれど、変に下心があると捉えられるのも嫌でそのまま時が過ぎていった。
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