淡く儚い永遠の始まり

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淡く儚い永遠の始まり

【淡く儚い永遠の始まり】 夏も終わりに近づいてきた八月下旬。私は電車に乗りある場所を目指していた。陽の光が眩しくて思わず目を顰める。 夜の世界で働くようになって昼夜逆転の生活になったが、健康には気を遣い自炊や運動、そして日中に外に出て陽の光に当たることを心がけている。  今日は大好きなアート作家の個展があるので、それを見に行く予定だ。その作家の作品に出会ったのは、私が高校一年生のとき。 何気に本屋をウロウロしていたところ、手帳コーナーにあったその人の作品に目を止めた。 優しいパステルカラーの色合いで描かれた太陽と花のイラストに、添えられた前向きになれるメッセージ。 絶望の中にいた私にはそれが救いで、生きる勇気をもらったのだ。そこから毎年そのイラスト作家さんの手帳を愛用し、ポストカードを部屋の至るところに飾っている。 そして、こうやって個展が開催されるとどんなに忙しくても予定をこじ開けて行くようにしている。 今回個展が開かれるのは、海辺にある展示ホールだ。電車を降りて海岸線を歩く。 海に来たのは何年ぶりだろうか。頭上には真っ青な空が広がり、太陽の光に照らされて水面がキラキラと光り輝いていて、鼻には潮の匂いを感じ頬を爽やかな風が撫でていく。 少し奥に見える海水浴エリアにはたくさんの人がいて、楽しげな声が聞こえてくる。なんだか新鮮だ。
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