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時間を忘れるくらいに個展を楽しんだ私たちは、売店で買ったラムネを飲みながら、海岸線の遊歩道を歩いていた。
会場を出てすぐに別れるつもりでいたが、七瀬先生に誘われて少し散策することにしたのだ。
傍からみたら恋人同士に見えるのかな。ラムネを飲みながら海水浴を楽しむ家族連れに目をやった。
一歳くらいの女の子だろうか。可愛い水玉フリルの水着を着てお父さんと見られる男性に手を引かれ、波打ち際でキャキャッと楽しそうに笑っている姿が微笑ましい。
カシャッ──
「七瀬先生……?」
「すごくいい顔をしていたから、つい。すみません」
カメラを構える七瀬先生が、唇を弓なりにして笑う。
柔らかな髪が風に揺れている。先生を司るすべてのパーツが絵になるほどに美しい。
そんな彼にカメラを向けられていると思うと、なんだか恥ずかしい気持ちにもなる。
「気を悪くさせてしまいましたか?」
すぐに私の変化に気付いたらしい七瀬先生がシャッターを切るのを止め、私の方を見た。
「いえ。そういうわけではなくて、なんだか恥ずかしくなってしまいまして」
「とても魅力的なので、写真のモデルになってほしいくらいですよ」
「とんでもないです。モデルなんて無理です」
ブンブンと首を横に振ると、先生はクスッと笑いカメラを下ろした。
どうやら諦めてくれたようだ。
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