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それでも一歩家の外に出れば、両親はそんな家庭の事情を見せはしない。今でも財界のパーティーなどには夫婦揃って顔を出す。
父のことがきっと死ぬほど憎いはずなのに、あの家を出ようとしない母の気持ちを私は少しも理解することはできない。たぶん、一生理解することができないと思う。
早く家を出たくて仕方がなかった中学時代。それでもお嬢様育ちで甘い世界で生きてきた私にはこの世界を飛び出す勇気がなく、気が付けば私は十八歳になっていた。
そんなある日、事件は起こる。
マスコミが父の不正献金疑惑を報じたのだ。ちょうどこのとき父は人生初の法務大臣に任命され、初入閣を遂げたタイミングだった。
そういうときのマスコミは一斉に粗探しをして、ここぞとばかりに初入閣組のスキャンダルを報じたがるものだ。
連日ワイドショーは父のこのスキャンダルを報じた。すると、私を見るみんなの目も冷たいモノへと変わっていき、学校でもひとりで過ごすことが多くなっていった。
別に私はそれでも構わなかった。誰にも気を遣わずひとりの時間を楽しめて、とにかく気楽だったから。
そもそも人と群れることがあまり好きではなかったのだ。父の疑惑は恐らく黒だと思っていた。
このまま父が捕まり今までの報いをうけるのであれば、きっとそれはそれで心がスカッとするのではないかとも思っていた。私は父の失脚を心の中で望んでいたのだ。
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