孤独な蝶は夜の街に身を隠す

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私と母も父と共に沢村さんの葬儀に参列したが、沢村さんのお母様は父の姿を見つけると、こちらへと歩み寄ってきた。 『あの子は本当に罪を犯したのですか? 本当のことを教えてください』 華奢な手で父の腕を掴み、思いの丈をぶつけた沢村さんのお母様。父は気だるげに見つめていた。 そして、『変な言いがかりは止めていただきたい』そう言って彼女の腕を払いのけ、待機する車に向かって歩き出した。 その場に泣き崩れたお母様を沢村さんの弟が必死に宥めている姿を見て、私は溢れ出す涙を止めることができなかった。 私の母も目を真っ赤に染めながら彼女のもとへと歩みより、ひざまずいて何度も何度も沢村さんのお母様に向かって頭を下げていた。 悲しみと絶望に打ちひしがれる姿に私の胸は締め付けられた。 その光景がいまだに頭から離れなくて、私はいまだにこのときの夢を見て魘されては夜中に目を覚ますのだ。 私は悪魔のような冷酷な男の、子ども。その事実はどうあがいても変わらない。
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