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軽く夕食を食べてから今日もある場所へと向かう。この時期特有のじめじめとした空気感が、私をますます憂鬱な気分にさせていく。
雨が蕭々と降り続く中、傘を差し向かった先はゆらゆらと光り輝くネオン街だ。そこの一角にある美容室に向かい、いつものようにヘアセットをしてもらう。
「桜ちゃんは、本当にお人形のように綺麗な顔立ちをしているわよね。うっとりしちゃうわ」
いつも私のヘアセットをしてくれている美容師の渚さんが、鏡越しにそう言ってニコリと微笑む。
渚さんは私より五つ年上のお姉さんみたいな存在の人。明るくてさばさばしていて、ヘアセットのセンスも抜群で私は彼女を信頼している。
彼女が呼んだ『桜』という名は、私の仕事場での源氏名だ。私は今、この界隈にある高級キャバクラでキャバ嬢として働いている。
セット料金で最低料金が五万円を超えるので、うちの店に来るお客さんはそれなりの富裕層にあたる方が多い。
「そんなことないですよ。そんなこと言ってくれるのは渚さんくらいだもの」
そう答えると、私は慣れた手つきでメイクの続きを始めた。
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