一 消しゴムと消えた親友

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紙山文具店から帰社した時には午後五時を過ぎていた。新入社員として働き始めて三日目、新しい業務を分刻みで教わる事が多く慣れない事に身も心も疲れていた。顔は良いけど失礼な人だったなあと文具店にいたびっくりするぐらいに浮世離れしたイケメン(おそらく店主)を思い出しながら借りてきた籠から買って来た文具を総務部の備品室に行き備品棚に入れていく。するとドアがいきなり開き、気難しい顔つきで墨田係長が入って来た。 「いたいた!筆野さんさぁ、戻ったら報告してよ」 「すみません。あと少しで終わりますっ」 慌てて籠に残っていた文具を棚に補充し買い出しリストに済の丸を付けていく。 「領収書は?」 「お店の方があとで持って来られることになって。支払いはまだです」 「はあ?」 墨田係長の咎めるような口調にまた何か言われると身構える。この人はとにかく細かい。仕事を教わっているのだけれど、いつも重箱の隅をつつくような細かい指摘が矢のように飛んでくる。入社三日目にして希望に膨らむ心が尖らせた言葉の矢尻でツンツンと毎日突かれてしぼんでいくような心許ない気持ちにさせる人だった。やっぱりあとで自分が店に取りに行きますと言おうとした時、ドアがノックされて同じ総務部の女子社員の菊池さんが顔を覗かせた。
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