退学

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退学

高校3年だが18歳になっている義人たち6人は高校を退学することにした。成人になっているから保護者の同意は不要なのだ。 月曜日、高校へと退学の手続きへ。土曜日からみんな家には帰ってない。 生徒会長の長瀬里美は、当然ながら校長や教師たちに退学を止められた。義人たち5人は「どうぞ、どうぞ」みたいな態度だったが。 「長瀬さんは東大も合格間違いなし。もったいないですよ」と校長。 「東大? あら、それは無理です」 「いやいや、君は全国模試でトップクラスですから」 「私は高校を卒業したら政略結婚させられるそうですから」 「え?」 「東大医学部に合格したら、政略結婚はしなくても良いと親に言われてましたが」 「が?」 「そもそも、受験させてくれないそうです」 「え?」 「東大を受験しようとしたら、全力で阻止するそうですよ」 「それって」 「女に学歴は必要ないらしいです」 「えっと……」 「運動部で全国1位になれば政略結婚しなくても良いと言われてましたが」 「は?」 「高校の運動部で全国1位と言えば甲子園で優勝で野球部だろと言われ、テニスで全国優勝は駄目だそうです」 「いやいや、それって」 「そうです。私の親は何が何でも私を政略結婚させたいんです」 「それは……大変だね」 「なので、成人するまでは親に従う素直な子供のふりをしてましたが」 「が?」 「この前、無事に成人しましたから」 「から?」 「もう、私は自由なのです」 「なるほど」 そんな感じで長瀬里美は校長や教師たちを論破して退学した。 それから市役所へ行き、義人たち三組のカップルは婚姻届を提出して夫婦になった。 「里美たん、親御たんに挨拶は良いのですかな?」 「良いわよ」 「しかしですな」 「話にならないから無駄よ」 「なるほど。話にならないのは時間と労力の無駄ですな」 「そうよ」 そして、6人は四国へ向かって歩き出した。 「あのさ」 「ん?」 「走ったほうが早くないか?」 「まあ、そうよね」 「確かにな」 「うん」 「では、走りますかな」 6人は走ってもぜんぜん疲れないことに気づいた。 「もう、3時間は走ってるけど、ぜんぜん疲れないな」 「そうね、息も上がらないし」 「超人パワーだな」 「うん」 「里美たん、大丈夫ですかな?」 「そうね、少し疲れたかも」 里美は義人たちみたいな完全な超人ではないので、少し疲れたらしい。 「じゃあ、このへんで休もうか」 「そうね」 「野宿?」 「今夜は雨らしいぞ」 「雨は嫌よね」 「超人でも雨は嫌ですな」 「じゃあ、泊めてくれるお寺とか探す?」 「調べたけど、最近は無料は駄目だそうよ」 「そうそう。困ってるなら行政やNPOに頼みなさいとか言われるみたいね」 「まあ、お寺も慈善事業じゃないもんな」 「そうよね」 「なら、駅とか24時間やってるスーパーとかなら?」 「なるほど。24時間営業の大きなスーパーなら、休憩コーナーもあるよね」 「腹が空いたら値引き品とか買って食べてもいいもんな」 「ですな」 「トイレも水もあるしね」 「だな」 「県庁所在地とかの大きな市なら24時間営業のスーパーは必ずあるだろうし」 「そうね」 住んでいた関東から東海道を走っている義人たち6人。 もちろん、車で走っていない。バイクや自転車でもない。自分の足で走っている。 横浜市に到着した6人は大きなスーパーを探した。 24時間営業のスーパーで休憩する6人。 めいめい、サービスの水を飲んだり、値引き商品を買って食べたり。 スマホを持っているのは長瀬里美だけなので、里美はいろいろと検索している。 「へー」 「どうしましたかな?」 「田舎だと、家付きの土地が0円とかで安く譲ってくれるみたいよ」 「そうなんですかな?」 「誰も使わないし不便な場所だし売れないし、固定資産税がもったいないしとか」 「なるほどですな」 「田舎だと、害獣駆除で猪や鹿とか捕れるらしいし」 「それは肉ゲットのボーナスステージですな。しかし、解体とか誰がするのですかな?」 「地元の猟師さんに習うのよ」 「余所者に教えてくれますかな」 「お礼とか払えば教えてくれると思うけど」 「そうですな。人の良い猟師さんなら安く教えてくれるかもですな」 「米作りや畑とか、農作業も教えてもらわないとね」 「あのさ」 そんな話を聞いていた義人。 「そんなの、ネットで動画とかあるんじゃないかな」 「あ、なるほど」 「なるほどですな」 「図書館で調べてもいいし」 「まあ、人に教わるのは面倒ですもんな」 「そうね」 「なるべく他人とは関わりたくないからな」 「ですな」 「うん」 6人は、かなりの人間不信なのだった。 【 終わり 】
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