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融合
ある土曜日、高校3年生の男女5人組が地方の田舎の川の上流でバーベキューをしていた。
最近はマナーの悪い人たちが多いため、バーベキュー禁止の場所も多いのだが、そこはバーベキュー禁止ではない場所だ。
なかなかの田舎だし、川のかなりの上流なので、他に人はいない。
「この肉、美味いな〜」
「義人、野菜も食べなよ。ほら」
「何だよ、お前は俺のオカンかよ」
「彼女よ」
「まあ、そうだけど」
「私はね、義人の健康を考えて言ってるの」
「まあ、うん。分かった」
「それでよし」
普通、男は女に口では勝てない。まして、今は相手の言っている事が正論だし。
義人は野菜も食べた。
「義人は亭主関白は無理だな」
「は? 何だよ、それ」
「亭主関白、知らないのか?」
「知らんけど」
「俺は亭主関白になる!」
「何の宣言だよ」
「輝雄、あんたも野菜。ほら」
「あん? 明美、俺様は亭主関白だぞ」
「はいはい」
「亭主関白は嫁の言う事なぞ聞かん」
「私は彼女です、嫁じゃないです。ほら」
「あ、アチっ! ムガっ、おい、やめろって」
焼けて熱々の玉ねぎを輝雄の口に入れようとする明美。
「言うことを聞かないなら、やらせないからね」
「あ、はい」
野菜を食べない亭主関白を宣言した輝雄は野菜を食べた。
だいたいの若い男は彼女からの「やらせないからね」には勝てないのだ。無条件降伏なのだ。
「二組とも熱々ですな、バーベキューだけに」
「おっさんみたいな事を言うなよ」
「そうよ、猛」
「猛も彼女くらいつくれよ」
「そうそう」
「わい、草食ですからな」
「草食って、お前、肉しか食ってないだろ」
「おお、わいとしたことが」
「どんなボケだよ、それ」
「名前が猛なのに草食かよ」
「名前は凶悪犯罪者よね」
「それは流石にひどいですな」
そんな地方の、のどかな河川敷に、宇宙船が音もなく着陸した。
『ほう、美しい惑星だな』
『水も緑も多いな』
『この惑星が私達のものになるのね』
『楽しみね』
『おいどんは美味いものがあれば、それで満足ずら』
ちょい悪な宇宙人カップル2組とプラス1人が乗った宇宙船だ。
地球の空気を調べる、ちょい悪な宇宙人の1人。
『どうだ?』
『俺たちには有毒だな』
『そうか』
『まあ、数時間で中和薬を作れる』
『頼む』
『ああ』
『あれ?』
『え?』
『ヨドムがいない』
『あいつ、どこに行ったんだ?』
カップル以外の1人が消えたらしい。
カップル以外の1人のヨドムは、みんなに相談もしないで宇宙船の換気をしようとしていた。
ヨドムはかなりの「うっかり」だ。
ハッチを開けたヨドムは地球の新鮮な空気を深呼吸した。
『スー、ハー、ガハっ!? し、死ぬ!』
死ぬかと思ったヨドムは仲間のいる部屋へ。
ドアを開けてヨドムは倒れた。
『ヨドム?』
『は?』
『おい』
『どうしたの?』
その部屋の中に、ちょい悪な宇宙人たちには有毒な地球の空気がどっと入ってきた。
地球の空気を吸ってしまった、ちょい悪な宇宙人たち。
『グハッ!』
『グア!』
『ゲハッ!』
『苦しい!』
『く、苦しいずら〜』
『てめえ! 勝手にハッチを開けたのか!?』
『ボケが!』
『ふざけんな!』
『死ね!』
『死ねと言われても、死にそうずら』
『早くドアを閉めろ』
『動けないずら』
倒れたヨドムがドアに挟まっていて、ドアが閉まらない。
どんどん地球の有毒な空気が部屋に入ってくる。
『これだけ、この惑星の空気を吸ってしまっては、この身体はもう駄目だ。こうなったら、この惑星の知的生命体に融合するしかない』
『時間は?』
『おそらく、3分』
『急ごう』
『ああ』
身長1センチの、ちょい悪な宇宙人たちは、急いで宇宙船から出て、地球の知的生命体を探すことに。
運が良いというのか、たまたまバーベキューをしている高校生の仲良し男女5人組を発見した。
『あ、あの巨人が、この惑星の知的生命体か?』
『おそらく』
『あれだけデカいと、融合しても俺たち、あの知的生命体を乗っ取れるのか?』
『しかし、やるしかない』
『そうね』
『やりましょう』
『やるずら』
ちょい悪な宇宙人たちは高校生5人組の足元に取り付き、体内に入れる穴を探した。
身長1センチと地球人と比べると遥かに小さな宇宙人だが、その身体能力は地球人を遥かに凌駕している。
宇宙人たちは瞬時に地球人の肛門を発見した。
肛門から地球人の体内に侵入した、ちょい悪な宇宙人たち。
宇宙人たちは地球人たちと融合したのだが、融合のショックで融合された高校生5人組は気絶した。
1時間後。
「……ん、あれ? 寝てたのか? あ! そういえば、パンツの中に何か入ってきて、肛門から何か入ってきたよな?……大丈夫なのか? 俺の肛門」
しかし、特に身体に違和感はない。
起き上がり周りを見ると、仲間たち4人が倒れていた。
「あれ? みんな寝て、る? おい、まさか死んでないよな?」
義人は彼女の友里恵を起こすことにした。
「こんな時は王子様のキスだな」
「誰が王子様よ」
パチッと目を開ける友里恵。
「おい、起きてたのかよ」
「みんな起きてるわよ」
「は?」
寝ているふりをしていた仲間たちが起き上がった。
「おい、義人、肛門、肛門って」
「あやうく笑うところだったわよ」
「肛門は大丈夫ですかな?」
「お前ら、起きてたなら起こしてくれよ」
「起こしたけど、起きないし」
「そうそう」
「義人、いったん寝ると大きな音でも起きないもんね」
「まあ、確かに」
「で、やっぱり義人も肛門か」
「ん?」
「みんな、肛門から何か入ってきたんだ」
「へ? みんな、大丈夫なのか?」
「ああ」
「大丈夫」
「大丈夫よ」
「屁でもないですな」
「肛門だけにか」
「ですな」
「でも、病院に行かなくていいのかな?」
「え?」
「いや、変な虫とかだったら」
「違和感はないし、肛門から出たんじやね」
「だよね」
「うん」
「それに、恥ずかしいし」
「あ、まあ……そうだよな」
「うん」
医者に肛門を調べられる彼女を想像した義人だった。
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