融合

1/1
前へ
/6ページ
次へ

融合

ある土曜日、高校3年生の男女5人組が地方の田舎の川の上流でバーベキューをしていた。 最近はマナーの悪い人たちが多いため、バーベキュー禁止の場所も多いのだが、そこはバーベキュー禁止ではない場所だ。 なかなかの田舎だし、川のかなりの上流なので、他に人はいない。 「この肉、美味いな〜」 「義人、野菜も食べなよ。ほら」 「何だよ、お前は俺のオカンかよ」 「彼女よ」 「まあ、そうだけど」 「私はね、義人の健康を考えて言ってるの」 「まあ、うん。分かった」 「それでよし」 普通、男は女に口では勝てない。まして、今は相手の言っている事が正論だし。 義人は野菜も食べた。 「義人は亭主関白は無理だな」 「は? 何だよ、それ」 「亭主関白、知らないのか?」 「知らんけど」 「俺は亭主関白になる!」 「何の宣言だよ」 「輝雄、あんたも野菜。ほら」 「あん? 明美、俺様は亭主関白だぞ」 「はいはい」 「亭主関白は嫁の言う事なぞ聞かん」 「私は彼女です、嫁じゃないです。ほら」 「あ、アチっ! ムガっ、おい、やめろって」 焼けて熱々の玉ねぎを輝雄の口に入れようとする明美。 「言うことを聞かないなら、やらせないからね」 「あ、はい」 野菜を食べない亭主関白を宣言した輝雄は野菜を食べた。 だいたいの若い男は彼女からの「やらせないからね」には勝てないのだ。無条件降伏なのだ。 「二組とも熱々ですな、バーベキューだけに」 「おっさんみたいな事を言うなよ」 「そうよ、(たける)」 「猛も彼女くらいつくれよ」 「そうそう」 「わい、草食ですからな」 「草食って、お前、肉しか食ってないだろ」 「おお、わいとしたことが」 「どんなボケだよ、それ」 「名前が猛なのに草食かよ」 「名前は凶悪犯罪者よね」 「それは流石にひどいですな」 そんな地方の、のどかな河川敷に、宇宙船が音もなく着陸した。 『ほう、美しい惑星だな』 『水も緑も多いな』 『この惑星が私達のものになるのね』 『楽しみね』 『おいどんは美味いものがあれば、それで満足ずら』 ちょい悪な宇宙人カップル2組とプラス1人が乗った宇宙船だ。 地球の空気を調べる、ちょい悪な宇宙人の1人。 『どうだ?』 『俺たちには有毒だな』 『そうか』 『まあ、数時間で中和薬を作れる』 『頼む』 『ああ』 『あれ?』 『え?』 『ヨドムがいない』 『あいつ、どこに行ったんだ?』 カップル以外の1人が消えたらしい。 カップル以外の1人のヨドムは、みんなに相談もしないで宇宙船の換気をしようとしていた。 ヨドムはかなりの「うっかり」だ。 ハッチを開けたヨドムは地球の新鮮な空気を深呼吸した。 『スー、ハー、ガハっ!? し、死ぬ!』   死ぬかと思ったヨドムは仲間のいる部屋へ。 ドアを開けてヨドムは倒れた。 『ヨドム?』 『は?』 『おい』     『どうしたの?』 その部屋の中に、ちょい悪な宇宙人たちには有毒な地球の空気がどっと入ってきた。 地球の空気を吸ってしまった、ちょい悪な宇宙人たち。 『グハッ!』 『グア!』 『ゲハッ!』 『苦しい!』 『く、苦しいずら〜』 『てめえ! 勝手にハッチを開けたのか!?』 『ボケが!』 『ふざけんな!』 『死ね!』 『死ねと言われても、死にそうずら』 『早くドアを閉めろ』 『動けないずら』 倒れたヨドムがドアに挟まっていて、ドアが閉まらない。 どんどん地球の有毒な空気が部屋に入ってくる。 『これだけ、この惑星の空気を吸ってしまっては、この身体はもう駄目だ。こうなったら、この惑星の知的生命体に融合するしかない』 『時間は?』 『おそらく、3分』 『急ごう』 『ああ』 身長1センチの、ちょい悪な宇宙人たちは、急いで宇宙船から出て、地球の知的生命体を探すことに。 運が良いというのか、たまたまバーベキューをしている高校生の仲良し男女5人組を発見した。 『あ、あの巨人が、この惑星の知的生命体か?』 『おそらく』 『あれだけデカいと、融合しても俺たち、あの知的生命体を乗っ取れるのか?』 『しかし、やるしかない』 『そうね』 『やりましょう』 『やるずら』 ちょい悪な宇宙人たちは高校生5人組の足元に取り付き、体内に入れる穴を探した。 身長1センチと地球人と比べると遥かに小さな宇宙人だが、その身体能力は地球人を遥かに凌駕している。 宇宙人たちは瞬時に地球人の肛門を発見した。 肛門から地球人の体内に侵入した、ちょい悪な宇宙人たち。 宇宙人たちは地球人たちと融合したのだが、融合のショックで融合された高校生5人組は気絶した。 1時間後。 「……ん、あれ? 寝てたのか? あ! そういえば、パンツの中に何か入ってきて、肛門から何か入ってきたよな?……大丈夫なのか? 俺の肛門」 しかし、特に身体に違和感はない。 起き上がり周りを見ると、仲間たち4人が倒れていた。 「あれ? みんな寝て、る? おい、まさか死んでないよな?」   義人は彼女の友里恵を起こすことにした。 「こんな時は王子様のキスだな」 「誰が王子様よ」   パチッと目を開ける友里恵。 「おい、起きてたのかよ」 「みんな起きてるわよ」 「は?」 寝ているふりをしていた仲間たちが起き上がった。 「おい、義人、肛門、肛門って」 「あやうく笑うところだったわよ」 「肛門は大丈夫ですかな?」 「お前ら、起きてたなら起こしてくれよ」 「起こしたけど、起きないし」 「そうそう」 「義人、いったん寝ると大きな音でも起きないもんね」 「まあ、確かに」 「で、やっぱり義人も肛門か」 「ん?」 「みんな、肛門から何か入ってきたんだ」 「へ? みんな、大丈夫なのか?」 「ああ」 「大丈夫」 「大丈夫よ」 「屁でもないですな」 「肛門だけにか」 「ですな」 「でも、病院に行かなくていいのかな?」 「え?」 「いや、変な虫とかだったら」 「違和感はないし、肛門から出たんじやね」 「だよね」 「うん」 「それに、恥ずかしいし」 「あ、まあ……そうだよな」 「うん」 医者に肛門を調べられる彼女を想像した義人だった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加