アラジン・インセイン

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 原爆知らぬ世界では核開発も成されなかった。国防総省も設立されずインターネット開発資金提供もなく。ナチスのV2ミサイルがベースになったロケットでの宇宙開発も行われず、車両や航空機や船舶は旧態依然のまま進歩せず。第二次世界大戦以降のブレイクスルーはやって来なかった。  飛躍は全て戦争で優位に立つ為の各国の切磋琢磨の結果ではなかったのかと思わせた。  平和にとって革新は不必要だ。牧歌的な自然のリズムに身を任せるだけでいい。煌びやかな都市は欲望を鉄筋コンクリートで固めた幻想に過ぎない。遠い昔の「武器ではなく花を」は死語だ。そもそも改変世界に武器など必要無い。    けれど、俺が願った「戦争」という言葉を辞書から消す為に魔人が暗躍した裏の一部始終は、雇い主と呼ばれる高次元のゲーム配信者から宇宙同時中継されていたらしい。  武器と兵力を持たない丸腰の地球は全宇宙の植民地ターゲットになった。連日連夜多種多様なエイリアンの侵略宇宙艦隊が地球に押し寄せた。  抵抗の術を知らぬ人類は容易く征服された。  高尚に進化した彼らは争う事もなく地球の支配分布を交渉で決めた。  改変歴史の中で南北戦争が行われず北軍が勝利しなかったアメリカでは黒人奴隷制度がずっと続いていた。それに並ぶように人種の差異なく全ての人類が侵略宇宙人に生殺与奪の権を握られ奴隷の身へと堕とされた。  叶えれば失う。  運命の天秤は平衡を絶対視する。  分かっていた筈なのに。  アラジンの末裔である俺は先人が記した歴史の御伽噺たちから何も学んでいなかった。  そんな後悔をしながら、枷の重りが食い込む足首の痛みを我慢して強制労働の列に並ぶ。  新しい誰かが魔人に出会いこの状況を覆す願いを捧げる事を密かに願いながら。          End or To Be Continued ?
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