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アキハバラの空は重油が流出したような虹が畝る濁った瑪瑙色だった。
その中を禍々しい妖鳥が飛んでいた。
「ついに見つけたのね」
ジュニアと魔人の傍らに降り立った妖鳥は頭から生えた翼を畳んで詰め寄った。
「さあ今すぐ私の身体を元に戻して!」
「お断りします。貴女の願いは既に三つ叶え済みですので」
「頼んだのはこんな姿じゃなかった!」
「コイツは願い事の拡大解釈が過ぎるんだ。魑魅魍魎のモンスターの類いに変えられた被害者はキミだけじゃない」
青年は記憶を甦らせる。
ある日、少女は身を投げる寸前に「生まれ変わったら鳥になりたい」「彼に振り向いて貰いたかった」「逆に追いかけて欲しかった」と願った。墜落で砕けたペンダントから現れた魔人は三つの願いを叶える為に彼女を妖鳥に変え、ファンとして追っかけしていた男子アイドル歌手も悪魔デーモンの姿に変え、原因となった妖鳥を恨み追うように仕向けた。振り向くとデーモンが迫る恐怖に慄き、追い詰められた少女は妖鳥の鋭い爪でデーモン男子を引き裂き殺してしまった。それがランプ魔人被害者の会に収められた彼女の記録だ。
「俺の二つ目の願い事は、彼女を元の姿に戻せだ!」
ジュニアはガスマスクの下で叫んだ。
「願い事が下手ですなあ。差し出がましいですが、そこは異形に変えられた全員を戻せとか言うべきじゃないでしょうか?」
魔人はロバート・デ・ニーロみたいに肩を竦めたポーズをする。
「あっ......じゃ、それで」
青年は頭を掻きながら訂正した。
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