4人が本棚に入れています
本棚に追加
瑞希の瞳に映る私は、自然に笑えているのだろうか。
「うん、ありがとう。今から出しに行くんだから、それフライングだけどね」
瑞希の笑顔は自然でとても綺麗だった。
パタンと部屋の扉が閉じて、世界は陽菜1人だけになる。
一呼吸置いて瑞希が一階へ降りた頃、母の声が聞こえてきた。「瑞希くん! 来てたのね、海ももう支度が出来るから」という母の声はいつもよりどこかテンションが高い。
陽菜は続きを聞きたくなくて羽毛布団を引っ掴むと、もう一度布団の中へ潜り込んだ。
もしも昨日、海の「陽菜ちゃんは、もういいの?」という言葉に「よくない」なんて答えていたら今日は来なかったのだろうか?
いや。もしも瑞希が夢を諦めていなかったら?
もしもーー。
もしも、私が先に瑞希に告白していたら?
今日、海と瑞希は婚姻届を出しに行く。
今日から私は、瑞希の姉になるのだ。
「もしも生まれ変わったら海になりたい」
もう誰も聞いちゃいないのに1人そう呟けば、堪えていた寂しさが胸の中いっぱいに広がった。
完
最初のコメントを投稿しよう!