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「さぁね、理由は教えてくれなかった。内緒の一点張り。でも俺はなんとなく分かるよ、海が陽菜になりたい訳」
瑞希は口角を左右均等に上げて、女神みたいに優しく微笑んだ。
「陽菜は賢いでしょー。あと歌も上手い。ちょっと頑固だけど、それは芯があってカッコいいなって思う時もあるし、クールに見えるけど誰よりも周りの人間に情が厚くて……優しい」
そう言うと瑞希は陽菜の鼻頭をつんと指で押した。さっきから呼吸を浅くしている事や緊張が混じって、心臓のリズムは速くなる一方だ。
いくら幼い頃から一緒に遊んできた幼馴染の仲とはいえ、瑞希はこうしたボディタッチを無自覚にするからタチが悪い。
瑞希からすれば犬を撫でるのと同じ感覚のような事でも、陽菜にとっては叫び出したくなるくらいの威力がある。
陽菜はキュッと拳を握った。
「なに。今日はやたら褒めるね。お菓子ならあげないよ」
瑞希がそんなモノの為に言っている訳では無いということは長い付き合いで分かっている。でもそうやって可愛くない事でも言って精神を保たなければ、ドロドロに溶けてしまいそうだった。
「だから嘘なんか付かないってば。それに俺が生まれ変わってバンド組む時は、陽菜をボーカルに勧誘するつもりだもん」
瑞希は唇をムッと尖らせて言った。
なんだそれ。勘弁して欲しい。
今日はやたらと私の心をかき乱すじゃないか。
たとえくだらない妄想話だとしても嬉しいなんて、瑞希が知ったらどう思うのだろう。
「で、陽菜は? 生まれ変わったら何になりたいの?」
私が生まれ変わったら ――。
脳裏にふと一つの候補が浮かび上がる。しかしそれを口にして理由を尋ねられたらなんと答えればよいのだろうか。
陽菜は少し考えたのちに浮かんだ候補を胸にしまった。
「4ピースバンドってやつのボーカルかな」
代わりにそう告げれば瑞希は目をまん丸にした後に「俺の来世は安泰だな」と肩を揺らし笑った。
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