蕾のハナミズキ

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「早く仲直りしろよ。昨日の夜喧嘩したんだろ?」  瑞希は陽菜の頭に手を置いて、まるで子供をあやす様にぽんと撫でる。  その手は綺麗な細い指だけど、どこか骨ばっていて大きい。  陽菜は瑞希の手を見るたびに、中性的な容姿でもやっぱり男の子なんだと気付かされる。  それを自覚したのは高校生の時だ。  瑞希はバイトで貯めたお金を全てはたいて初めて自分のギターを買った。「家で練習すると親父がうるさいから」と自慢のギターを引っ提げて、頻繁に陽菜達の家へ訪れたものだ。  陽菜は「気が散って勉強が出来ないんだけど」なんて言いながら、本当は瑞希がギターを弾く指を眺める時間が好きだった。 「……海なんか言ってた?」  やっぱり知っていたのか。瑞希がこうして部屋を訪ねてくるのは、海と喧嘩したり決まって陽菜が落ち込んでいる時だった。  どうしたの?なんて根掘り葉掘り理由を聞いてくるわけでもなく、ただ寄り添って、くだらないもしもシリーズを尋ねてくる瑞希に何度救われた事か。 瑞希は腕を付いて上体を起こすと両手をぐーっと天井に向かって上げ、伸びをした。 「いや、内容は何も。陽菜に酷いこと言っちゃったって泣きながら電話してきただけ。まぁあれじゃない? アイツ今、悪阻(つわり)も酷いし情緒不安定なんだろ」
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