蕾のハナミズキ

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 ツキンと陽菜の心が痛む。  そうだ。海の妊娠が分かった数日後、粗大ごみに捨てられていた瑞希のギターを見た時もこんな気持ちになった。  手入れがほどこされたピカピカのギターはその場に似つかわしくなくて。名前も分からない感情で胸がいっぱいになり、泣きそうになったことをよく覚えている。  きっと泣きたいのは主人を失ったギターか、その持ち主だというのに。 「そうだね。私も酷い態度取っちゃった」  瑞希がくるっと首を回してこちらを見る。 「どうせ海がいつもの天然で、無神経なことでも言ったんだろ?」 「……でも海に悪気はなかっただろうし。今日は仲直りに海の好きなケーキでも買ってこようかな」  そう言えば、瑞希はまたあの女神みたいな微笑みを浮かべて「ほら、陽菜は優しい」と言った。  瑞希がベッドから降りて、陽菜の部屋の遮光カーテンをシャッと勢い良く開ける。  さっきまで世界に2人だけだと錯覚するほど暗かった部屋は煌々とした太陽の光りに照らされた。  本来ならば部屋に朝日を取り入れるのは今日の始まりを告げる合図だろう。しかし陽菜は、この世界に終わりが来た事を告げる光に思えた。  例えるならそう。ヒーローが悪役を倒して迎えた朝日とか、ゲームが終わって出てくるエンドロールとか。夢のような一晩を過ごしたのに、ネクタイを結ぶ男性を見て我に帰る朝とか。多分、そんな感じ。 「さてと。そろそろ行くか。陽菜、今日は良い天気だよ」  眩し過ぎる太陽の光に目を細めながら、窓辺に立つ瑞希を見る。  太陽の光に照らされた瑞希は、瑞希自身が発光しているかのようだった。  誰かにとっては終わりでも、誰かにとっては始まりなのかもしれない。 「瑞希」  陽菜はようやくベッドから体を起こして、部屋を出て行こうとする瑞希の背中を慌てて呼び止める。  昨日の夜、海にも同じことを言おうとしたのに失敗した。今度はちゃんと上手に言わなくちゃ。 「ん? なに?」
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