その一

1/5
前へ
/18ページ
次へ

その一

 今日から私は、旦那様のお屋敷に住まわせていただくことになりました。私の身の上の不幸を旦那様はたいそうご心配下さって、それでこのお屋敷に呼んで下さったのです。  私の不幸な身の上と申しますのは、私の母の事でございます。  母はたいへん身持ちの悪い女でしたもので、父の亡き後、いえ、父が床で臥せっている間にも何人かの男の間を行き来しておりまして、それを私も幾度となく目にする事がありまして心苦しく思っていたのでございますが、ある時、その相手の男というのが私に、男と女の関係を迫りましたことが母の知る所となり、逆上した母が刃傷沙汰を起こしまして、それで刑務所に入ることとなり、私も借家を出なくてはいけなくなったものですから、たまたま父と旦那様の間でお仕事の話が何度かあった事がありまして、件の沙汰をお聴き及びになって、お声をかけて下さった次第です。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加