その一

4/5
前へ
/18ページ
次へ
「ここを使うといい」  旦那様はそうおっしゃって、お二階にある陽当たりのよいお部屋のドアを開けて下さいました。今までには見た事もないような洋風のお部屋で、お友達に借りました雑誌などで目にした事もありましたけれど、小さな柳行李だけで越して来ましたものですから、何だか恥ずかしくなってしまって、「旦那様、もっと小さなお部屋でいいんです」と申しました。そうしましたら旦那様はお笑いになって、「気に入らないなら、他の部屋でもいいんだよ。これからずっと、一緒に暮らすわけだからね」と仰いました。  私は自分が何かとても身の程知らずなお願いをした気がしまして、「いいえ、気に入らないなんて事、ございません。こちらのお部屋を使わせていただければと思います」と頭を下げました。  旦那様は私の肩にそっと手を置かれて、
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加