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父、就活するそうで
打ち水がされたばかりなのか少し湿る広い庭。
暑そうに団扇で首元を扇ぎ、冷やす今年で90歳を迎えた父。
「お父さん、急に『佐智子早く来てくれ』なんて変なこと言い出すから何かあったのかと心配してきてみればなに?どうしたの?」
「おぉ、佐智子。わざわざ来てくれてありがとうなぁ」
私の言葉に父は振り向くと団扇を縁側に置き、笑顔で手を振った。
そして、うーんと一度唸ると何かを決心したのか重い腰を持ち上げ、立ち上がる。
「今日からワシ、就活する!」
「はぁ!?」
笑顔でピースサインする父はお得意の冗談というわけではないようで、その目は本気。
だが、年齢は90歳。どう考えても無理。
立つのだって「のっこらしょ」と声を上げているのに。
「いやー、ちょっと色々あってな」
父はへへっと頭を掻く。
「色々って何よ。何の答えにもなってないじゃない。それに、就活したところでお父さんみたいなよぼよぼを採用してくれるところなんてないに決まってるでしょ?」
そう、ないに決まってる。
何度も何度も父に無理だと言った。
それでも、父は駄々っ子のように就活すると言い張り、仕方なく私は父のわがままを受け入れることにした。
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