ドストエフスキーは熱狂し、ツルゲーネフはそれを冷笑した。

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 ロシア・メシアニズムの話。  これはロシアからメシアが産まれるというのではなく、ロシアそのものが正教徒にとっての救世主であるという信念のことである。    ロシア的な思考の枠組みにおいては、ロシア皇帝は東ローマ皇帝の末裔である。ロシア帝国はイスラム教徒の支配下にあるビザンティウム(コンスタンティノープル)を奪取し、すべてのスラブ民族=ギリシャ正教徒を解放する使命を持つ。と、彼らは考える。  ここまではパンスラブ主義の情熱の表現とも見ることができ、それほど特異でもないが、ロシア・メシアニストたちが迷いなく信じたことは、ロシアによる解放をすべてのスラブ人が望んでおり、新たなビザンティン皇帝すなわちロシア皇帝による支配を、すべての正教徒が喜んで受け容れるであろうという、妄想というべき確信であった。  ロシアの拡張主義は、不凍港への渇望といった、合理的な理由だけでは説明がつかない。ピョートル大帝が繰り返した南方(トルコ領)への遠征も、単なるパラノイアではない。  ロシアは世界史の中に特別な位置を占める特別な国であるとするこのミームは、いつ発生したのかわからないほど古いし、近代化にも共産化にも負けずに今も生き続けていると見るべきであろう。    ロシアは侵略も征服もしない。  奪われた領土を回復し、本来ロシアに属する人々を解放するだけなのである。    言うまでもなく、ロシアの拡張主義にはモンゴル・タタールから受け継いだミームも影を落としているが、その話はまた別の機会にすべきであろう。              
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