わたしのともだち

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静寂が耳を刺す。 私の体は、ホームから数十センチ下の線路に落ちた。電車の急ブレーキ音が、走馬灯を加速させていく。  時刻は5時51分00秒になった。私の体は、社会の軋轢にペシャンコにされていく。痛いと思った。けれど、あの子にされた「じゃれあい」よりは痛くなかった。脳内麻薬ってこういうことをいうんだろうな。  流れゆく意識の中、私はペシャンコにされていないほうの片目で駅に親友が来たのを悟った。 親友は私がホームに降りるのを見ていたみたいで、ペシャンコになった私に、あの水色のヘアピンで気づいたみたいだ。  ねえ、泣かないで。友達が死んだら悲しまなくちゃおかしいから、常識の奴隷になって泣くなんて、あなたらしくないよ。あなたが、遅く来なかったら、私はあなたの手を引いてホームに降りてしまったから。人が死ぬのと、自分が死ぬのはやっぱ違うでしょ。ねえ、安心してよ。私に殺されなくてよかった、そういう安堵の涙を流してよ。私のスマホはたぶん復元されるはずだから。 私が死ぬ理由は、あの子たちのせいだと誰もが思うだろう。もしかしたら、一日だか二日だかは私の学校がニュースに載るのかもしれない。  でも、きっとすぐに世間は忘れてしまって、あの子たちもリクルートスーツを着るようになって、たぶん私のことを一生背負ってくれるのは親友だけだと思う。  私は独占欲が強くて、親友の心に私の居場所が欲しかったんだと思う。たとえ親友が白のドレスを着ようとも、それを脱いで彼のものになろうとも、親友の一部はもう私のものだ。
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