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夏の終わり24
もう一度、太一へ顔を戻した私はピクリとも動かない彼をじっと見つめた。そして一滴また一滴と屋内だというのに太一に雨が降り注ぎ始める。全身から力が抜け崩れ落ちた私は先生に体を支えられ椅子に座らされた。一気に込み上げきた悲痛に呼吸は何度も突っかかり、紅涙は私の意思とは関係なく溢れ出す。胸は今にもはち切れそうなのに、それでもまだ打ちのめすような感情は止まらない。
もはや自分と言う人間の主導権を失い私は荒波に弄ばれるだけの船のように太一へ突っ伏しただ慟哭した。ただ溢れるがまま泪を流し声を上げ、圧し潰されそうなほど胸に溜まった感情を少しでも外へ吐き出した。他の事を考える余裕はあるはずもなく一つの行動をするようプログラムされたロボットのようにひたすらに。
それからは、もうどれくらい泣き続けたかも分からない。
「大宮さん。一度外へ出て落ち着きましょう」
ただそう言われると私は看護師の手に導かれ立ち上がり一度病室を出た。そして受付傍の待合にあるソファまで寄り添われ行くとそこで腰を下ろした。もう体の水分を全て出し切ったと思えるぐらい流したはずなのにまだ頬を伝う泪。看護師さんは私を座らせると少しして水を持ってきてくれた。小さくお礼を言ってそれを受け取ると一口。その間に看護師さんは隣へ腰を下ろした。
そして紙コップを手に持ったままの私が人の温もりを求めるように寄り掛かると看護師さんの手が回り優しく抱き締めてくれた。すっかり体は疲れ何も考えられずぼーっとしてるはずなのに、喉に詰まる悲しみと胸に溢れる悲嘆がハッキリとそこにあるのが分かる。そしてそれに呼応するように流れ落ち続ける泪。
私は未だ自分でも自分をどうにも出来ないでいた。
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