あなたと蛍と私と

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あなたと蛍と私と

 慣れても薄暗い視界。私の手を引く同じ様に小さな手。  私は導かれるように獣道を走ってた。だけどすぐにその足は速度を落とし始める。徐々に走りから歩きに変わりさっきまで前に居たその子の隣で私は足を止めた。手は握り締めたままで。  足が止まると胸の中では心臓が暴れるように脈打ち、それに合わせるように二つの荒れた息遣いが聞こえていた。運動と気温の所為で額に滲む汗。お揃いで熱くなった手も汗ばんでる。それでいて微かな涼しさをくれる風鈴のように心地好い川のせせらぎ。  でも今の私にとってそれら全てはおまけのような存在でしかない。  私は眼前の光景にすっかり目と心を奪われていた。  暗闇の中、お城で開かれた舞踏会のように舞い踊る儚く淡い緑色。辺りを照らすには頼りないけど、暗闇の中で輝き、視線を釘付けにするには十分な光。私にはその生い茂る夏草や水面の周りを舞う蛍たちがとても煌びやかに見えていた。まるですぐそこに煌々とした満天の星があるかのように。そんな蛍景色に見惚れていた私の息はいつの間にか落ち着きを取り戻し、隣のあの子の存在も握った手の温もりからしか確認できなかった。  その最中、別に何かがあったという訳じゃないけど、私は何色かまだ分からない糸に引かれ視線を蛍から隣へ。その子は口を半開きにして私のように目を輝かせながら蛍景色に見惚れていた。  でも私にとってその横顔が蛍より輝いて見えたのはどうしてなんだろう。蛍景色よりも目が離せなくなったのはどうしてなんだろう。走った後とは関係ないこの胸の高鳴りは何なんだろうか。  今の私にとってはその全てが不思議な感覚でしかなかった。切ないような心地好いような、矛盾しているようにも感じる不思議な気持ち。ただひとつ分かっている事と言えば、この気持ちが目の前のその子へ向いているという事だけだった。
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