五年前

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この時私は紗苗さんの死を弘介さんのせいだと思っていたところがあった。 頭では弘介さんに責がないことを分かっていたのに、どうしても「あの時弘介さんが遅れなかったら」と思う気持ちがあったことを否定できない。 だけど弘介さんがこの先もずっと紗苗さんのことを好きでいるのなら、きっと許せるんだと思った。 だから私はわざと弘介さんのことを好きだと何度も言ったし態度にも出した。 別れの近付いたある雪の日、弘介さんは言った。 「僕が紗苗さんを殺したんだ」 そして紗苗さんのお葬式の日の話をしてくれた。 そして私が弾かせてもらっていたあのギターが紗苗さんの残したものだと知った。 知らなかった。私はそんな大事な物を弾かせてもらっていたのかと驚愕した。 だけどそういうところも弘介さんらしいなと思った。 その日、弘介さんと別れた後、一人で歩きながら紗苗さんのお葬式の日のことを思い出した。 私もあの日あの場にいて、多分弘介さんの後に紗苗さんの部屋に入った。 紗苗さんのお父さんは私になんでも持って帰っていいと言ってくれた。 弘介君はもう持って帰ったから、と。 私はこう君が持って帰ったのがなんだったのか気にしながら、机の上に一冊だけ置かれた本を何気なく手に取った。 私が紗苗さんに薦めた本だった。その本は一瞬であるページを開く。 そこに何かが挟まっていたのだ。二つ折りにされた紙を開く。 そこには紗苗さんの文字でこう君に宛てた言葉があった。 私はそれをそっと閉じると、本の間に挟み、それをもらった。 紗苗さんのお父さんに言おうかとも思ったけど、そうしたらどうせこう君の手に渡るだろう。 私はそれを自分の手でこう君に渡したかった。
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